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植田 和弘・京都大学大学院経済学研究科教授

2008.01.01
「京都議定書 第1約束期間の始まり――温暖化する『地球』を救うために経済を戦略的に変える」

植田 和弘・京都大学大学院経済学研究科教授

植田 和弘  うえた かずひろ
京都大学大学院経済学研究科教授;同地球環境学堂教授
1952年香川県生まれ。京都大学工学部卒、大阪大学大学院工学研究科博士課程修了。経済学博士・工学博士。持続可能な発展の重層的環境ガバナンス、環境制御の財政理論、循環型社会の理論と政策などを研究。京都大学経済研究所助手、経済学部助教授を経て、94年教授、97年大学院経済学研究科教授。2002年大学院地球環境学堂教授を兼務。この間、85〜86年ロンドン大学、未来資源研究所留学。中央環境審議会臨時委員、経済財政諮問会議専門委員会循環型経済社会委員など歴任。著書「環境経済学」「環境経済学への招待」「環境と経済を考える」「持続可能な地域社会のデザイン」、共著「持続可能な発展」「グローバル化時代の都市」「人間環境の創造─持続可能な文明のために」など。


http://www.econ.kyoto-u.ac.jp/~ueta/

約束の年が明けた。
京都議定書で定めたCO2削減の第1約束期間(2008年─2012年)のスタートだ。温暖化防止は、いわば人類史的課題。1年で解決できるわけではなく、また1人で解決できるものでもない。地球上全ての人が取り組むべきスケールの大きな課題である。果たして約束は守れるのか? そしてその先への準備、2013年以降のポスト京都の国際的枠組みづくりに日本はどのような姿勢で臨むべきか? 2つの大きな課題がリアリティを持って迫ってきている。

第1の課題に対し、日本の約束は、CO2排出量90年度比6%削減。しかし既に2005年度時点で7.7%(2006年度速報値では6.4%)増えており、トータルで13.7%も削減しないといけない状況だ。それに対し、実際の取り組みは「徐々に」という印象が拭えない。法的拘束力のない計画でなく、規制を含む経済的措置を導入すべきという議論もある。

もちろん自主的な削減で目標達成が叶えばいいが、温暖化問題は第1約束期間の目標を達成すれば終わりという話ではない。2007年のハイリゲンダムサミットで日本が提唱した「クールアース50」、2050年までに世界全体でCO2を半減するという提案が、国連の場で真剣に検討されることが確定。これは大変意義のあることだが、率直に言うと、非常に難しい。

なぜなら、今、温室効果ガスの排出量は先進国と途上国が5割ずつだが、今後、途上国の排出量は格段に増えることが予想される。例えば中国が日本並みの生活水準になったとき、人口比率で言えば中国国内で8億台の自動車が走るようになる。これは現在、地球上を走っている車の総数に相当する。さらにインドも日本並みになれば、プラス8億台。これだけ見ても途上国での削減は容易ではない。たとえなんとか途上国での排出量を現状並みに抑えたとしても、地球全体で半減するには、先進国の排出量を「ゼロ」にしなければならない計算になる。

温暖化防止のために、一人ひとりの心がけが大切だと言われる。もちろん個々人が環境配慮のマインドを持つことは大切だが、それではとても「ゼロ」にはならない。数%の削減なら自主的行動計画も効果はあるが、ゼロにするには抜本的な発想転換が必要だ。

温暖化対策が徐々にしか進まないのは、未だ経済と環境がトレードオフの関係にあるとの思い込みがあるからだ。経済を優先すれば環境に負荷がかかり、環境対策に取り組めばコストがかかって経済的にはマイナス――この二項対立を突破し、環境と経済の好循環を生むために、私が提唱したいのが、地球温暖化防止の「環境経済戦略」だ。

温暖化対策には「節約」や「小さな努力の積み重ね」をせざるを得ないような、受身スタイルのネガティブなイメージがつきまとうが、必要なのは「対策」でなく「戦略」。もっとポジティブに、未来社会をつくるという創造的でイノベーティブな仕事に戦略的に取り組みたい。

それにはまず、市場自体に温暖化抑止機能を持たせるのが重要だ。今のように、炭素削減に膨大なコストがかかり、見返りはない、というのでは、削減への動機づけは難しく、日本企業が潜在的に持っているイノベーションを生み出す力を、温暖化防止に持ち込めない。

また、もっと温暖化防止の「ものづくり」「まちづくり」が自然に進むようにしたほうがいい。有害物質を含まず、温室効果ガスの発生が少ない素材を使い、リサイクルを組み込んだ「ものづくり」を日本の武器にすれば、将来必ず世界に使ってもらえるようになる。

「まちづくり」にしても、環境への取り組みが地域価値を高めるようにならないと進まない。例えば、ドイツのフライブルクは中心街への自動車乗り入れを禁止したことで、高齢者にも歩きやすい街になり、商店街も活性化。CO2を削減しながら、街に賑わいが戻り、雇用も増え、「環境首都」として、世界から視察団が訪れている。

環境先進国ドイツの面目躍如といったところだが、実は70年代後半にはドイツから日本へ多くの人が調査に来ていた。彼らは、日本企業の省エネ・公害防止技術と、公害防止協定など自治体環境政策──この2つを学びにやってきた。しかし近年、日本に来る人はほとんどいない。今の日本は個々の環境技術には優れていても、全体としてのしくみや取り組み方などに見るべきものがなく、メッセージ性が極めて弱まっている。

今こそ日本は、「ものづくり」も、「まちづくり」も、「生活スタイル」も、温暖化防止仕様に変えていくべきである。現状のスタイルのまま節約だけを唱えるのではなく、未来社会のスタイルはこうだというモデルを打ち出し、発信していけば、世界的にも日本の存在感が高まるはずだ。

それが第2の課題である、2013年以降の国際的枠組みづくりにおける日本の役割にも関わってくる。2013年以降の枠組みは、世界全体でCO2を半減すべくアメリカも中国・インドも巻き込んで、先進国トラックと途上国トラック、2トラックで考えることが必要だ。もちろん先進国での削減は大幅に進めるべきだが、それが難しく辛いと捉えられたら、途上国側は自らやろうという気にはならず、先進国 対 途上国という対立図式は続いてしまう。そうではなく、CO2削減は実際にできるし経済的マイナスにはならないという事例を途上国に対し具体的に示すことができれば、途上国も削減課題にコミットする。その良い事例、楽しく削減できるという事例を日本が示す。国内で環境経済戦略を推進していくことが、国際的な枠組みづくりでの役割に結びつくというわけだ。

日本が世界に範を示した環境技術や自治体環境政策から40余年、環境政策は世界的に学び合いながら進化している。その進化の過程で、再び日本が、技術力をベースにイノベーティブな環境経済戦略でイニシアティブを発揮する。2008年、約束の年に、日本がその第一歩を踏み出し、世界に向けて元気な第一声を発信できるよう、私自身も動きたい。 ■


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